お正月にお供えする理由
鏡餅の丸い形は人の魂(心臓)を模したものといわれ、また昔の鏡が円形だったことから「鏡餅」と呼ばれるようになりました。
元禄8(1695)年に出版された「本朝食鑑」に「大円塊に作って鏡の形に擬(なぞら)える」との記載があることから、鏡餅は拝み見るべきものだったのかもしれません。大小2つ重ね合わせるのは、月(陰)と日(陽)を表しており、福徳が重なって縁起がいいと考えられたからとも伝えられています。
地方の呼び名いろいろ
鏡餅の呼び名は地方によって違います。お住まいの地域では鏡餅を何と呼んでいますか?もちろん「鏡餅」が一般的ですが、地域によってさまざまな呼び名があります。方言を集めた書物「物類称呼」(安永4年、1775)を紐解いてみましょう。
「かがみ餅 諸国の通称也 円(まどか)なる形によるの名なりとかや 東国にてそなえと呼 又ふくでん共云 越後及信濃にてふくでと云」
このように、「そなえ」「ふくでん」「ふくで」という名が昔の文書に記されています。他にも「具足(ぐそく)餅」「座り餅」という地域も。一方で、鏡餅に限らず正月に食べる餅を「年玉」と呼ぶ地方もあります。これは、年を取らせてくれる穀霊が餅に宿ることを意味しているからです。
お餅あれこれ「お食い初め」と餅
ハレの日の食として、人生の節目ごとに登場する餅。日本人とお餅の深い関わりを感じることができます。 「初誕生日」と餅 また、初めての誕生日は両家の両親まで招いて盛大に祝う地域があります。この日のためについた餅を「力餅」と呼び、風呂敷に包んだ一升餅を子供に背負わせることもあります。初誕生祝の日に餅を背負った子供が泣けば泣くほど元気な子供になるとして祝いました。その後も雛祭りの菱餅、端午の節句の柏餅など、節目ごとに餅で祝う習慣があります。 「棟上式」と餅 一方で、家を建てる際の棟上式は、土地の神霊に建物が完成間近であることを報告し感謝する儀式ですが、集まった近所の人に餅やお菓子、金銭などをまき、ともに祝う習慣を持つ地域があります。 「土用の丑の日」と餅
土用の丑の日には、夏バテや病気回復に効果のあるウナギを食べる風習がありますが、
同様に、餅を甘い餡で包んだ「あんころ餅」を食す地域もあります。 |
新谷 尚紀
(しんたに たかのり)
民俗学者(社会学博士)、
1948年広島県生まれ。
早稲田大学第一文学部史学科卒業、同大学院史学専攻博士課程修了。
国立歴史民俗博物館教授・総合研究大学院大学教授。
おもな著書に『神々の原像』吉川弘文館、『日本人はなぜ賽銭を投げるのか』文藝春秋、『日本人の春夏秋冬』小学館、『ブルターニュのパルドン祭り』悠書館、『お葬式−死と慰霊の日本史−』吉川弘文館、『伊勢神宮と出雲大社−「日本」と「天皇」の誕生』講談社、など。